退任した内田誠・前社長(時事通信フォト)
好待遇の社外取が“既得権益化”
また日産は4月1日から新体制となり、会社法で定められた役員である執行役5人のうち内田氏を含めた4人が経営責任を取って退任した。
そして執行の最高意思決定機関である「経営会議メンバー」は11人から8人に削減。これまでの執行役員制度も廃止し、執行役以下の役員数は55人から12人に減った。
日産はリストラ案の策定と実行などに関して意思決定の遅さが課題だと社内外から批判されてきたが、それを改善するために役員体制をスリム化した。一方で、社外取締役8人にも業績悪化などについて監督責任があると見られるが、全員が留任。ここでは誰も責任を取っていない。
日産社内からはこんな声も漏れ聞こえてくる。
「社外取は基本的に8年契約とも言われる。年間約2000万円の報酬、委員長ポストに就くとそれに500万円が加算され、部屋、秘書、クルマ付きの好待遇です。永井氏は2014年に社外監査役に就任し、ゴーン騒動後の2019年からは社外取締役に就いて、今年で延べ11年。既得権益化しています」(中堅幹部)
今後、一部の株主からは「社外取締役も経営責任を取るべきだ」との声が強まる可能性があり、日産は再び「ガバナンス問題」で揺れることになるかもしれない。
日産に一連の人事改革における取締役会や指名委員会でのやり取り、社外取締役の契約内容などについて確認したが、「論議の内容については公表しておりません。取締役の任期は1年、取締役独立性基準は8年までとなっています。個別の報酬などは公表しておりません」(広報部)と回答した。
こうしたなか、日産買収を目論む台湾の鴻海精密工業が水面下での動きを加速させ、今度はホンダに急接近しているとの情報もある。
驚くことに、ホンダ主導で鴻海を巻き込みながら日産を「共同統治」できないかという案が浮上しているという。
エスピノーサ氏は「オープンに色んなパートナーとの提携を検討する。ホンダとの(EV分野などでの)協業は止める必要はない」と説明し、再交渉に臨むことを否定はしていない。
生き残りをかけて、日産の新社長がどのような舵取りをするのか。
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【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/1964年生まれ。ジャーナリスト大手電機メーカー勤務を経て、朝日新聞社に入社。経済部記者として自動車や電機産業を担当。2004年に独立、フリージャーナリストに。主な著書に『日産VS.ゴーン 支配と暗闘の20年』などがある。
※週刊ポスト2025年4月18・25日号