ママ友・パパ友、高齢の親も対話の相手になりうる
最近、新規事業開発の分野では「オープン・イノベーション」という考え方が注目されています。これは、異なる分野の人たちと協力することで、新しいアイデアやイノベーションの種を生み出そうという取り組みです。「産学官連携」などもその一例ですが、実は壁打ちを使えば、大がかりなことをしなくても、自分だけでも似たような効果が得られるのです。
「遠い人」という考え方であれば、壁打ち相手は数え切れないほどいることになります。例えば、普段は仕事の話などしない学生時代の友人や、いわゆる「ママ友・パパ友」といった話しかけやすい人も候補です。その他にも、飲み屋で知り合ったクリエイター、近所に住むアスリートなど、全く異なる世界にいる人との対話には、新鮮な気づきがあるはずです。
私も、高齢の両親とスマホについて話をしていて「そうか、この文字サイズでは読めないのか」と気がついたり、ダンスを仕事にしている若い人と電動キックスケーターの話をして「特定の職場に通勤するという生活習慣がないと、移動手段の選び方も違って当然だな」と感心したりするなど、いわゆる企業人の方とオフィスやZoom会議でしているのとは全く異なる視点の新規事業の気づきを得たことがあります。
定年まで同じ会社で働くのが一般的な会社の中で話すのと、フリーランスの人と話すのとでは、セカンドキャリアについての考え方が異なるのも当然です。誰もが自身の環境の常識に準えて物事を捉えがちですが、「遠い人」と壁打ちをすれば、いろいろな気づきが得られます。
このように「拡張」といっても、必ずしもその道の専門家が相手である必要はありません。むしろ、同じ関係者でも自分とは立場の違う人や、異なる視点を持つ人との対話が、思わぬ気づきをもたらすことが多いのです。
■第2回記事:《「前例はあるのか」「所詮は…」ネガティブなことばかり言う人とあえて対話してみるメリット 自分にない感性、価値観がアイデアを磨き上げてくれる》につづく
これまで150社、3000案件、6000人以上の新規事業検討に伴走し支援してきた石川明氏
※石川明著『すごい壁打ち』(サンマーク出版)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
石川明(いしかわ・あきら)/株式会社インキュベータ代表取締役。1988年上智大学文学部社会学科卒業後、リクルートに入社。2000年にリクルートの社員として、総合情報サイト「オールアバウト」社の創業に携わり、事業部長、編集長などを務める。2010年に独立起業。大手企業を中心に、新規事業の創出、新規事業を生み出す社内の仕組みづくりに携わり、これまで150社、3000案件、6000人以上の新規事業検討に伴走し支援してきた。「壁打ち」の相手になって新規事業の起案者の話を聴く回数は年間1000回を超える。著書に『Deep Skill』(ダイヤモンド社)、『はじめての社内起業』(ユーキャン学び出版)、『新規事業ワークブック』(総合法令出版)がある。