最後の砦である備蓄米を小出しに放出し続ける愚行
挙句の果てには、国家の食料安全保障の最後の砦である備蓄米を、価格抑制という目先の目的のために、効果も疑わしいまま小出しに放出し続けるという愚行に及んでいる。3月に効果がなかったにも関わらず、4月にも10万トン、さらに7月まで毎月放出するという。これは国民を「朝三暮四」の猿扱いするに等しい、姑息で危険な弥縫策である。備蓄米は、古くなれば飼料用などに安価で放出されるのが常である。
平時に放出するならば、全量を一気に放出し市場価格の正常化を促し、その上で減反を完全撤廃し国内生産を自由化、不足分は関税を交渉カードに米国などから戦略的に大量購入する、それこそが本来取るべき道であろう。備蓄米を小出しにして食料安全保障を危険に晒す農水省は、一体何を考えているのか。彼らには、日本の農業と食の未来を構想する戦略的思考が決定的に欠落している。ただ、目の前の批判をかわし、要望に応えることだけが「仕事」だと勘違いしているのではないか。
JA全中会長は同会見で「コスト増加も価格転嫁しなければ持続可能な生産はできない」とも訴えた。それは当然である。しかし、そのコスト圧力の一部は、非効率な生産・流通システムを温存させてきた自民党と農水省、そしてJA自身の構造にも起因するのではないか。消費者に負担を求める前に、自らが徹底的な改革を行うべきではないのか。農家にも消費者にも良い顔をしようとした結果、結局どちらの信頼も失い、日本の米文化そのものを衰退させている。この罪はあまりにも重い。
「コメ離れ」は、自民党と農水省による長年の農政失敗の象徴である。彼らの無策、怠慢、欺瞞が続けば、日本の食卓から豊かな米が消え、食料を他国に依存する脆弱な国家へと転落する未来が現実のものとなるだろう。今こそ、国民は怒りの声を上げ、彼らに責任を取らせ、真に国民のための、日本の食と農の未来のための、抜本的な政策転換を断行させなければならない。さもなければ、彼らは「コメ離れ」を招き、日本の食を崩壊させた戦犯として、歴史に名を刻むことになるだろう。
【プロフィール】
小倉健一(おぐら・けんいち)/イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立して現職。