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田代尚機のチャイナ・リサーチ

トランプ大統領「対中関税145%」でも中国の台頭を抑えるのが困難な理由

トランプ大統領の相互関税政策が世界経済に与える影響は(Getty Images)

トランプ大統領の相互関税政策が世界経済に与える影響は(Getty Images)

第1期トランプ政権以降、海外事業リスクを分散させる中国企業

 トランプ大統領が中国に対して追加関税政策をはじめて打ち出したのは第1期政権時代の2018年だ。それから既に7年の歳月が経っているが、その間、変化を厭わず、決断の速い中国企業が無策であったはずがない。

 たとえば、磁性材料などに関する基礎技術を持ち、スマホ、タブレット、AI/ARグラス、ロボット、自動車など広範に利用される電子部品を製造する広東領益智造では、日米を含むグローバルで事業を展開しており、2024年12月期の海外売上高は71.7%と高い。しかし、トルコ、ブラジル、インド、アメリカなどグローバルに58か所の生産・サービス拠点、8か所の精密組み立て工場を持っており、海外事業リスクの分散が進んでいる。

 また、光学ガラス、セラミックなどに関する基礎技術を持ち、スマホ、タブレット、AI/ARグラス、ロボット、自動車など広範に利用される電子部品を製造する藍思科技では、2024年12月期の海外売上高は58.6%だが、本土に加えベトナム、タイ、メキシコなどに合計9か所の研究開発拠点、生産基地を持っており、米国、ドイツ、日本、シンガポールには営業所がある。生産基地、販売先を多様化させることで、一国におけるビジネス環境の急変によって事業基盤が揺らがないような体制を築いている。

 中国電子産業と米国ハイテク産業では、グローバル化に関して大きな違いがある。米国では、アップルに代表されるように、下請け先を巧みに管理することで生産工程の垂直化を高度に進めているところが多いが、中国では海外企業を下請けで使うといったやり方よりも、自社が各国でM&Aを行ったり、直接投資したりすることで、生産拠点を並列化することで事業を拡大させているところが多い。

 電子産業以外でも、たとえば他国への代替が比較的容易に進みそうな繊維産業について、カジュアルウエア、スポーツウエアなどのニット衣料に関する本土大手OEMメーカーの申洲国際集団では2024年12月期における売上高海外比率は71.9%と高いが、ベトナム、カンボジアに生産拠点を持っている。販売先の国際分散が進んでおり、米国は欧州、日本に次ぐ3番目の輸出先だ。

 低付加価値、低価格の訴求で成功している衣料・雑貨などの中小零細企業は米国向けビジネスの喪失により大きな影響を受けるだろうが、こうした製品は、市場開拓の余地が比較的大きい。また、小回りの利くビジネスモデルなだけに、逆境でのしたたかな対応力を発揮すれば、生き残るチャンスはあるだろう。

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