「働きたい高齢者」が大きく増えることが見込まれる中、不可避となるのは年齢にかかわらず働ける労働市場の整備だ。
そのためには、定年引き上げではなく、定年制を廃止しなければならない。英米を筆頭に、すでに世界の主流は定年制を法で禁止することだ。なぜなら、「終身雇用」とは本人の意思を無視して、一定の年齢になれば強制的に解雇する「年齢差別」だから。
企業側も有為な人材が定年で辞めれば人材資源の損失だから、定年制廃止は歓迎だろうが、実現には越えなければならない壁がある。それは「金銭解雇」だ。
いったん雇った社員をいつまでも解雇できないのでは、会社は高齢者の巣窟になってしまう。定年制廃止とセットで、企業が合理的な経営判断と公正な手続きで従業員を解雇できるルールがどうしても必要なのだ。
先進諸国はどこも解雇のルールを定めているが、会社への帰属意識が極端に強い日本は労働組合からの反発がはげしく、議論することすら長くタブー視されてきた。
だが「生涯現役社会」が不可避となった今、定年制の廃止のために、「働き方改革」はこの聖域に踏み込まなくてはいけない。
私なら、繰り下げる
今後、多くの人が「老後を短く」を実践すると、年金受給のトレンドも変わってくる。現在は、将来受け取れる年金額の先細りを見越して繰り上げ受給を選択する人が多いが、じつは繰り下げのほうが圧倒的に有利だ。
現行制度では、65歳より早く年金を受給する場合は1か月あたり0.5%ずつ年金額が減らされ、遅く受給する場合は0.7%ずつ増えていく。
これは、60歳で受け取る選択をすると毎月の年金が30%減、逆に70歳まで繰り下げると42%増になるということだ。