「まず、男性と女性では“社会的許容度”が違います。たとえば、仕事を辞めて都会から田舎に戻って働いていなくても、女性なら『家事手伝い』としてある種の『役割』を与えられ、それで周囲も納得しますが、男性はそうもいかない。家の外に出ると、無職の中高年男性は地域社会から奇異の目で見られ、警戒されるので、家から出られなくなる。
加えて、女性よりも優位な立場にある正社員の男性が非正規に落とされるとひどくショックを受けるでしょう。一方、女性の働き口はそもそも狭き門であった長い歴史があるため、“下から上がる女性”と“上から落ちる男性”とでは精神的な耐性が違います。圧倒的な男性優位社会であるはずなのに、自殺率も男性が7割なのは、いったん脱落すると立ち直れないからです」
高齢者向けのコミュニケーションサービスを提供する、こころみ代表の神山晃男さんが話す。
「男性は、会社員として生きることを拠り所にする人が多く、どこへ行っても名刺や肩書で自分や相手が何者かをはかりがちです。そのため、肩書がなくなると自己肯定感が低くなる傾向が強い。高いプライドで弱い自分を守ろうとするので周囲に溶け込めず、ひきこもりがちになる。一方の女性は、そもそも地位や肩書を基準に生きていないので、自然体で人づきあいができます」
国立社会保障・人口問題研究所によると、65才以上のひとり暮らし男性の半数以上が、「1日に誰とも話していない」と答えており、女性の約4割よりも高かった。脳機能の違いを指摘するのは、脳科学者の塩田久嗣さんだ。
「女性の方がコミュニケーションに関する脳機能が平均的に発達しています。また、脳の構造からみても、男性は脳のある部分を局所的に使い、女性は全体をまんべんなく使う傾向がある。局所的にひとつの物事を考えて行き詰まりがちな男性の脳より、さまざまな脳の部位の結合状態が豊かな女性の脳の方が楽天的に物事をとらえられ、ひきこもりになりにくいのかもしれません」