あらためて、本書の「はたらく言葉たち」がネットで批判を浴びた理由が何だったのかを考えてみたら、これらの言葉を発する人の多くが成功者なんですよね。経営者も多いし、役員もいるし、「総合商社」やら「コンサルタント」もいる。1960年代の「モーレツ社員」的な働き方をしてきたと思われる方々の言葉は、もはや低賃金の「非上級労働者」の心には響かないでしょう。「お前はうまいことやったからそんなこと言えるけどさ……」と感じてしまうのです。
一方、この本で「いいこと言ってるじゃん」と思ったのは、実は学生の言葉なんですよ。
〈「今の就活っておかしくない?」って言ってたら、わたしがおかしい人間扱いされました。(学生 20代)〉(8巻)
〈「君は社会でどうなりたいの?」と聞いてくる社会人の目が死んでいた。(学生 20代)〉(8巻)
これらの言葉をネットに出したら、賛同の声も大きかったかもしれません。現在SNSでRTやシェアを多く獲得するものを分析すると、根性論は炎上しますが、ネガティブな「魂の慟哭」や「理不尽さへの嘆き」といったものは共感の嵐となる傾向があります。
本書は「自己啓発書文脈」でいえば、大いに「アリ」な本でしょう。だからこそ、これまで本シリーズをわざわざお金を払って買った人もいるだろうに炎上してこなかった。しかし、電車内の広告としてチョイスする言葉のセレクトを間違えたうえに、「自己啓発書文脈」と親和性のない人が見てしまうと、炎上してしまう。
今回の騒動、私のように「有料メディアと無料メディアの違い」についてひたすら考え続けてきた人間からすれば、あらためて「両方は性質が違い過ぎるので、ただ単に転用するのではなく、取捨選択やら編集が必要」という編集者としての原点を感じました。