共働き世帯が専業主婦世帯の2倍以上になったことで、専業主婦の社会的地位はどんどん低下しています。欧米ははるかに先行していて、もはや専業主婦を指す英語「ハウスワイフ」は死語に近くなりました。
SNSなどでは、仕事も育児もこなして成功した著名人女性がたくさんの評価を獲得しています。子育てしているだけでは、「社会に貢献している」とはみなされなくなってきたのです。
日本もこの数年で急激に価値観が変わっており、今では子育てが一段落しても専業主婦を続けていると、ママ友から「なんで働かないの」と責められるそうです。
こうした変化の背景には、安倍政権が掲げる政策があります。
ほんの少し前まで、保守の政治家は「女性は家を守るべき」と言っていましたが、今では「女性が輝く一億総活躍社会」に変わりました。日本経済は空前の人手不足で、女性と高齢者に働いてもらわないと回らなくなったのです。こうして、専業主婦に有利な制度が見直され始めました。
たとえば、「配偶者控除の縮小」。税を優遇するから女性が働かないのだという理屈で、サラリーマン家庭の負担はますます重くなっています。
夫がサラリーマンなら、専業主婦の年金保険料の負担がゼロだった「第3号被保険者制度」の縮小・廃止の動きもあります。「保守本流」であるはずの安倍政権で、まるで、専業主婦を“目の敵”にするような政策や制度が次々と打ち出されているのです。
専業主婦に厳しいのは日本だけでなく世界も同じです。スウェーデンでは年金など社会保障は「家庭」ではなく「個人」単位で、結婚した女性も働かなければ自分の年金はありません。だからこそ、「男女平等」が当然とされています。「結婚しても、子供が生まれても働く」というのは、後戻りできない大きな流れなのです。
◆橘玲(たちばな・あきら):1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。近著に『上級国民/下級国民』(小学館新書)、『事実vs本能 目を背けたいファクトにも理由がある』(集英社)。
※女性セブン2019年8月15日号