どんな国の政府であろうと大災害が起きれば被災者の生活再建と復興に最優先で取り組むはずだ。震災を口実に「財源がない」と復興より増税を優先させたのは世界でもこの時の日本の政治家、官僚たちだけではないか。国民は口車に乗ったことで、後々まで苦しめられる。
役人の給料に計上
増税が決まると、各省庁は被災地そっちのけで湯水のようにカネを使い始めた。「復興予算の流用」である。
国民が増税の痛みに耐え、何十万人もの被災者が不自由な避難所生活を強いられているとき、役人は自分たちの“職場環境改善”や福利厚生に増税のカネを食いつぶしていった。
文科省は復興予算389億円で被災地以外の国立大学の体育館、図書館などの施設を建設し、国交省は「道のないところに道路ができれば防災に役立つ」と100億円をかけて沖縄と北海道で国道を整備、農水省は「被災地の住宅再建のために木を植える」と九州に林道を引き、水産庁は「被災地の石巻はかつて捕鯨の町だった。商業捕鯨再開で活気づけたい」と南氷洋での調査捕鯨とシーシェパード対策に23億円をつぎ込んだ。
それだけではない。官僚たちは「防災」名目で内閣府が入居する霞が関の中央合同庁舎4号館、荒川税務署などの改修費など役所の職場環境改善に何億、何十億の復興予算を計上、各省の人件費(給料)にも131億円が計上され、果ては福利厚生で利用するスポーツクラブの割引にまで復興増税を使い込んだ。
そうした実態をジャーナリスト・福場ひとみ氏が本誌追及レポート(2012年8月10日号)でスクープすると、被災者や国民から怒りの声が巻き起こった。『国家のシロアリ 復興予算流用の真相』の著者でもある福場氏が指摘する。
「官僚たちは最初から流用するつもりで復興特別税をつくった。当時は民主党政権で公共事業予算が減らされており、各省とも予算が欲しい。そのために政府の復興基本方針にあらかじめ『全国防災』という考え方を盛り込んで、復興予算を全国の公共事業に流用する口実を用意していたのです」
流用問題は国会で問題化し、会計検査院も調査に乗り出す。次の野田佳彦内閣は「復興予算見直し」の方針を掲げて35事業の予算執行を停止した。各省が基金に貯め込んでいた復興予算流用分の1000億円も追加で返納させると発表した。
国民は役人が流用したカネは国庫に戻ったと思い込まされた。