返納額は1割未満
真相は違った。返納指示の一方、野田内閣は役所がすでに執行していた予算は「返納に及ばず」と不問にしていたからだ。
当時、会計検査院は復興予算が使われた1401事業を調査し、そのうち326事業、総額1兆3000億円分を「被災地と関係ない」と認定していた。政府が執行停止したのはわずか35事業、しかも全額停止は8事業のみで一部停止を合わせても停止額は168億円。追加返納分を合計しても1168億円で、流用総額の1割にも満たない。
会計検査院はこの326の流用事業が何かを具体的に明らかにしていない。では、1兆2000億円ものカネは何に消えたのか。予算が消化された事業を探れば行き当たる。
前述の水産庁は捕鯨調査費を全額執行し、昔からの天下り財団として知られる日本鯨類研究所への赤字補填の補助金につぎ込んでいた。
環境省は震災の瓦礫処理を引き受けなかったにもかかわらず、自治体のごみ処理施設建設に250億円の補助金を与え、公安調査庁は「被災地での過激派や外国スパイの活動監視」を名目に無線付きの公用車14台を復興予算で購入していた。合同庁舎や税務署の改修予算は一部執行停止されたものの、その後、別の予算で改修工事が行なわれ、役人の“職場環境”はしっかり改善した。
増税は政治家も潤した。震災復興は2020年までの10年計画で総額23兆円をあてる予定だった。だが、安倍首相は政権に返り咲いた直後の2013年1月に復興計画を修正して「前半5年で25兆円」に予算を増額させる。そのタイミングで自民党は復興特需に沸くゼネコン業界に「4億7100万円」の献金を要請する文書を送った。
効果は覿面だった。その年の建設業界の自民党へのゼネコン献金は倍増し、大手ゼネコン5社の自民党献金が2012年は1社約810万円だったが、2017年には1800万円へと倍増している。
その間、復興予算はさらに膨れあがって8年目の今年度までに35兆円が投じられた。シロアリ官僚が全国にバラ撒いた復興予算がゼネコンを太らせ、自民党へと還流する増税のトリクルダウンである。