上期におけるアメリカの対中貿易赤字額は若干減少したものの、全体としての赤字額は拡大している。中国政府は実体経済への悪影響を緩和させるために、単に需要を刺激するような景気対策を行うのではなく、イノベーションの進展を図るための戦略的新興産業の育成発展戦略や、国際市場へのアクセスを拡大するような市場開放・自由化政策を打ち出している。中国製造2025計画を加速させ、サプライチェーンの分断を和らげるような政策を打ち出している。トランプ政権の高圧的なやり方は、効果を表さないというよりも、逆効果でさえある。
もはや有権者を喜ばすことができなくなってきた
トランプ大統領は経済に関する知識が不足しているのではないか。8月30日、「GMは主要工場を中国に移してしまったが、すぐに、アメリカに工場を戻したらどうか」などとツイートしている。
これに対して自動車産業に詳しい専門家はCNBCの取材に応じて、「トランプ大統領の発言は正しくない。GMはこれまでアメリカの工場を中国に移転したことはない。GMは中国に大規模な生産工場を持っているが、これは中国市場の需要を満足させるために新たに造った工場である。2018年における中国での販売台数は360万台であるのに対して、アメリカでの販売台数は300万台に過ぎない」などと答えている。事実誤認に加え、アメリカ自動車メーカーにおける中国市場の重要性について理解が足らない。
自動車やスマホをはじめ、素材から最終消費財まで、ほとんどの分野で数量ベースでは中国がアメリカを凌駕している。
2018年のアメリカの名目GDPは中国よりも53%ほど大きい(IMF統計より)。しかし、アメリカの国際収支は巨額の貿易赤字を金融収支で補う形となっており、他国通貨と比べ、ドルを高く保つ為替政策が採られている。人民元対ドルレートについても同様で、実体経済と比べれば、ドル高人民元安となっている。
こうした点を差し引くために、購買力平価を用いて2018年のデータを再評価すると、アメリカの名目GDPは中国よりも19%ほど小さい(世界銀行統計より)。グローバル企業にとって巨大市場“中国”へのアクセス遮断は死活問題なのである。