社会には、巧妙に隠され「言ってはいけない」とされてきた事実が多くある。9月25日に金融庁が開いた金融審議会で、「年金だけでは老後30年で2000万円不足」と指摘した報告書の撤回を決めた。政府の「言ってはいけない」がまたひとつ増えたのである。
その裏にはもっと不愉快な真実が隠されている。老後資金の不足額は2000万円よりはるかに多いのだ。
金融庁報告書はもともと「老後に備えて現役時代に貯蓄をしておこう」とiDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(少額投資非課税制度)などでの資産運用を勧める趣旨だった。
「老後資金の不足額が多いと貯蓄や運用では補えないことになる。そのため報告書は不足額を少なく見積もっている」
そう指摘するのは著書『言ってはいけない』(新潮新書)や『上級国民/下級国民』(小学館新書)などが話題の作家の橘玲氏だ。では、「本当の不足額」はいくらか。
金融庁の「幻の報告書」は、総務省の家計調査のデータをもとに、老後資金が2000万円不足すると試算した。しかし、この金額は年金額が30年間変わらないという前提で計算され、実際には、もらえる年金は毎年減っていくことが考慮されていない。
厚労省が9月に発表した年金の財政検証では、今年65歳で年金受給が始まった夫婦の年金額は現在の22万円から、30年後には実質18万7000円に下がると試算されている。30年間で約685万円減額される。これを加味すると不足額は約2685万円に膨れ上がる。まだある。
「高齢者が家に住み続けるには住宅リフォームなど相応のお金がかかります。介護費用なども考えておかなくてはならないということです」(橘氏)