かつて「勝ち組」とされてきた専業主婦の立場に異変が起きている。実際は、さまざまな事情から経済的に行き詰まり、専業主婦を強いられ、貧困に陥る女性──「貧困専業主婦」が数多く存在するというのだ。
厚労省は、生活に最低限必要な収入を表す指標である「貧困線」を、4人世帯で収入244万円、3人世帯で211万円としている(2015年)。
「貧困専業主婦」とは、「労働政策研究・研修機構」主任研究員である周燕飛さんによる造語だが、周さんの著書『貧困専業主婦』(新潮選書)によると、この貧困線を下回る収入の「貧困世帯」のうち、妻が無職で18才未満の子供がいる夫婦世帯を「貧困専業主婦世帯」と呼ぶと定義される。
2011年に労働政策研究・研修機構が行った大規模調査では、そうした専業主婦世帯の貧困率が12%にも達していたことがわかった。実に8人に1人、50万人以上が貧困に陥っていたと推計された。
このように、「専業主婦」とは、かつてイメージされた“夫に養われ余裕のある優雅な暮らし”とはかけ離れたものになっているのが現実なのだ。それでも、依然専業主婦に憧れる人は多い。『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)の著者で相模女子大学客員教授の白河桃子さんが話す。
「ある女子大でセミナーを開いた際、学生に理想のライフプランについて聞きました。すると、『いつかは専業主婦』と答えた割合は2割にとどまりましたが、一時期仕事を辞めるつもりかどうかを聞いた『バリキャリで太く短く』『子育てで辞めて復帰する』と答えた学生は、それぞれ7%と17%いました。『いつかは専業主婦』と合わせると、44%にものぼります。それだけ、隠れ専業主婦願望のある女性が多いということです。
多くの学生が、家庭に尽くしてきた自分の母親を見て育っているため、漠然と“自分の専業主婦の姿”を思い浮かべるのでしょう」