遺産分割を巡り全国の家庭裁判所で争われた事件数は、2012年の8000件から2018年は1万3000件と急増している。そのうち3割は遺産総額1000万円以下というから、もはや他人事ではない。
親や夫がボケてしまった時、何の準備もしていないと大変なことになる。広島県に住む主婦の松田さん(仮名、63才)は、2才年上の夫が脳梗塞で倒れた。幸い一命をとりとめ退院したが、自宅で静養中、認知症が進行。
「最初はちょっとした物忘れだけでした。でも、少しずつ感情のコントロールができなくなり、今では人が変わったように暴力的に。財産管理は夫がしていたので、お金を口座から引き出せなくなって困っていると、ヘルパーさんから『成年後見制度』をすすめられました」(松田さん)
成年後見制度とは、認知症などで判断能力が衰えた本人に代わって家族や第三者が「後見人」となり、財産管理や日常生活の支援をするもの。
本人に判断能力があるうちに自分の意思で後見人を選ぶ「任意後見制度」と、判断能力が衰えてから家庭裁判所で決定される「法定後見制度」がある。松田さんは、必然的に後者の法定後見制度を選ぶことになったが、これですべてが解決すると安心したのも束の間、最悪の現実が現れた。
妻である自分が、後見人に選ばれなかったうえ、経済的な自由を奪われたからだ。弁護士の外岡潤さんが話す。
「『法定後見』は、後見人に弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多く、申し立てをした親族が選ばれないこともあります。後見人が指名されると、本人が死ぬまで後見人が財産を管理します。そのため、親族はもちろん本人の望むものも自分の判断で買うことができなくなるのです。お菓子や日用品ひとつ買うのも制限されるケースもあると聞きます」