「接待相手が部下になった」
「三越伊勢丹」でも賃金格差が生まれたという。
「三越出身者は待遇面で大きな格差をつけられたとされます。本給こそ統一されたものの、一時は賞与面で格差が生じて、三越出身の社員の不満が募ったと言われます」(関氏)
三越伊勢丹では、この賃金格差が問題となり、合併に先駆けて統一された組合が分裂。執行委員長のポストをめぐって三越、伊勢丹双方の推す候補者が争ったこともあった。
三越伊勢丹の50代社員は、社風の違いを感じる場面があったと語る。
「富裕層の外商ルートを優先的に押さえようとする三越出身社員に対して、伊勢丹出身社員が『大事なのは店舗にお客さんを呼ぶこと』と主張するなど、カラーの違いを感じることは今でもあります」
建材大手のトステムと製陶大手のINAXが2001年に経営統合以降、2011年にサンウエーブ工業、新日軽、東洋エクステリアの計5社が合併して誕生して現在に至る「LIXIL」では、「社員の立場の逆転」が多くみられたという。INAX出身の50代社員が語る。
「合併後は5社から来た人間が同じフロアでシャッフルされて混ざり合い、商売上の付き合いで接待していた相手が部下になったり、逆に接待されていた相手が上司になったりして、気まずい時期がありました。
私はINAX時代にトイレなど水回りが専門だったけど合併後はサッシも扱うことになり、サッシ専門の他社から来た部下に仕事の相談をされても上司としての助言ができず、恥ずかしいことが結構ありました」
「5社シャッフル」は待遇面にも影響したという。
「出身会社の規模と業績で待遇が決められて、トステムとINAX以外の3社出身だと『課長級』の等級でも給料は1等級下の『課長補佐』くらいだったと記憶しています。
一方、賞与は合併後の業績に連動するので、合併前に業績が落ち込んでいた3社から来た社員は、『最後のほうはボーナス一律10万円だったので、本当に助かります』と新会社の賞与体系を喜んでいました」(前出・50代社員)
まさに合併は悲喜こもごもなのである。
※週刊ポスト2020年1月17・24日号