電話ですぐにお金を貸してほしい旨を伝え、その直後に近所のファミレスでAさんは社長と会った。そして、こうお願いした。
「本当にごめんなさい。彼からのモラハラや暴力に耐えられなくなったので、こっそりと逃げようかと思っています。何も言わずに、ある日突然消えているようにしたいのですが、私にはお金がありません。部屋を借りるとなると敷金礼金も必要で、あとは引っ越し代もかかりそうです……。ごめんなさい! 失礼を承知でお願いしますが、40万円を貸していただけませんでしょうか。1年間でなんとか返します。仕事をこれまで以上に頑張り、お金を返すことをモチベーションに営業をして仕事を増やしていきます」
社長は彼女の切羽詰まった状況を即座に理解した。元々、彼女の緻密な仕事ぶりと真面目さを知っていたため、「おそらく有言実行で1年間で全額返せるだろう」と判断。すぐにATMへ行き、現金40万円を彼女に渡した。利子は不要と伝えた。
かくして彼女は後日、彼が会社へ行っている間に、引っ越しを済ませた──。
彼女に出て行かれた彼氏が改心して…
これに茫然としたのが家に帰って来た彼氏だ。Aさんの私物がことごとく消えており、部屋の中はガランとしている。これを見て、それまでの自分の仕打ちを反省するとともに、失ったものの大きさも理解した。
Aさんは彼からの電話は着信拒否し、メールにも一切返信をしなかった。自分の居場所を知っている人には「絶対に彼氏に教えないでほしい」とお願いをした。
こうしてAさんと彼氏の同棲生活は終わった。彼氏の方はこれまで2人で家賃を払っていた家の家賃負担が厳しくなり、引っ越しをせざるを得なくなった。この時は実家の親に引っ越し代と安い部屋を借りるにあたっての初期費用を支援してもらった。新しい部屋に住み始めるとAさんとの日々を思い出し、悲しくなってしまう。
半年後、Aさんの仕事は順調に増えていって、この時点ですでに前出の編集プロダクション社長からの借金を全額返済していた。そんな時に、彼氏が改心して正社員になって真面目に働くことを決意し、復縁を強く希望していることを、共通の知り合いから聞いた。