子供達が巣立っていき、老夫婦ふたり暮らしになると、住まいをコンパクトにするべく一戸建てを売却してマンションへ引っ越しを検討するケースは少なくない。だが、一戸建てから小さなマンションに住み替えてからの悩みは、お金のことだけでなく、ほかの住民たちとの人間関係のことにも及び、これが想像以上の負担になる。
4LDKの一戸建てを売却して、夫婦で2LDKの中古マンションに引っ越した62才女性・A子さんが心境を語る。A子さんの夫は定年退職したばかりの65才だ。
「ほかの住人は2回りくらい下の小さな子供を持つ子育て世代ばかり。彼女たちは集まって楽しそうに立ち話していても、私は蚊帳の外。はじめはなんとも思っていませんでしたが、だんだんとすごく寂しくなってきたんです。ご近所さんと世間話したり、お互いの家に上がってお茶したりしていた、前の家が本当に懐かしい。前の家では、顔を合わせるたびに口げんかしていたお隣さんのことを嫌だと思っていたのに、いざ“けんか友達”がいなくなると張り合いがなくて…」(A子さん)
高齢者の生活支援や居住環境調整に詳しい、大阪保険医療大学准教授の山田隆人さんが指摘する。
「世代が違うと価値観も生活課題も違うので、挨拶以上の関係にはなりにくい。話が合わないという以前に、そもそも“つきあい”にならないことが多いのです」
それどころか、高齢者が子育て世代とトラブルになるケースも少なくないという。
「高齢になると高い音が聞き取りにくくなる一方、子供がドタバタするような低い音は振動として響くので、敏感になりやすい。特に閉鎖的な生活をしていると、そうした“気になること”にばかり意識がいってしまい、マンションに引っ越してから文句ばかり言いに行くようになる高齢者もいます」(山田さん)