「人生100年時代」において在宅介護・在宅医療の注目が高まり、愛着のある自宅で人生を締めくくることを望む人が増えた。しかし、ひとつ間違えると理想とは程遠い“悲劇”を招いてしまうことも。経験者たちの失敗例から学べることは──。
関西在住のA氏(58)は、同居する母(82)が3年前に要介護3の認定を受けた。しかし、A氏夫妻は共働きで日中は家を空けることが多かった。
「平日は母の食事の準備や掃除・洗濯に、着替えの手伝いなどのために、ヘルパーさんに来てもらっていました」(A氏)
訪問介護サービスを受けているとはいえ、母がひとりになる時間も少なくない。次第に母の身体機能の衰えが進み、A氏夫妻の不安も増してきた。
そこでA氏の妻はフルタイムで働いていた会社を辞め、自宅勤務が可能な仕事に切り替えた。「これでヘルパーさんがいない時も安心」と考えていたのだが……。
これまで受けていた訪問介護サービスの一部が、在宅勤務への切り換えによって打ち切られてしまったのだ。ケアタウン総合研究所所長の高室成幸氏が言う。
「在宅介護を支えるヘルパーさんの業務には、オムツ替えや着替えの手伝いなど利用者の身体に触れる『身体介助』と、部屋掃除や食事の調理など『生活援助』の2種類に大別されます。Aさんの母親のケースでは、奥さんが会社勤務で働いていた間は、『身体介助』と『生活援助』の両方を受けられていた。
ところが、『生活援助』のサービスは、介護保険制度の定めにより、日中に同居する家族がいる場合、原則的に受けられなくなってしまうのです」