実際に2020年1月、アメリカからの脱脂粉乳の輸入量は前年比122%に急増。これは乳飲料やお菓子のほか、粉ミルク、シチューのルー、プロテイン、アイスクリーム、ヨーグルトなどに幅広く使われる。前述したチーズも、チェダーチーズやゴーダチーズ、粉チーズなどは2033年までに段階的に関税が撤廃される。今後さらにアメリカ産の乳製品が増えることは明白だ。
関税率の引き下げにより、海外の乳製品に手が届きやすくなるのは、冒頭の佐野さんほどの乳製品フリークでなくても歓迎だろう。だが、手放しでは喜べない事情がある。
「発がんリスク7倍」のホルモン剤
「アメリカ産乳製品には安全上の懸念がある」と話すのは、食品問題に詳しい東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんだ。
「アメリカでは『遺伝子組換え成長ホルモン』を投与された乳牛が飼育されています。牛乳の生産量を増やすために開発された『ボバインソマトトロピン』というホルモン剤を注射するのです。略して『γ(ガンマ)BGH』または『γBST』と呼びます」
これにより、乳牛の出す乳の量は2~3割ほど増え、乳を出す期間も30日ほど延びる。エサなどの飼育コストも大きく抑えられる。酪農家にとっては夢のような話だが、これは世界のほとんどの国々で使用を禁止されているという。アメリカ・ボストン在住で元ハーバード大学研究員の内科医の大西睦子さんが説明する。
「γBGHを使用して生産された牛乳は、『インスリン様成長因子(IGF-1)』という成分が増える。人間が過剰摂取すると、異常な細胞増殖、つまり、がん化につながると懸念されています」
発がんの因果関係は明らかになっていないが、最新のレポートでは、牛乳に含まれるIGF-1を摂取し続けることの危険性を示唆している。
「3月18日に発表された、米カリフォルニアのロマ・リンダ大学の研究です。5万3000人の女性を対象にした研究結果では、1日2~3杯の牛乳を飲む人は乳がんのリスクが80%増加することが判明しました。半面、豆乳を飲む人は乳がんリスクが32%減少。原因は判明していませんが、研究チームはγBGHによって増加するIGF-1と乳がんの関連性をにらんでいます」(大西さん)