緊急事態宣言が解除されたとはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大ですでに多くの企業が業績に打撃を受けている。上場企業はまだ体力がある方だとはいえるが、株主還元を縮小する動きはすでに顕在化している。
個人投資家が投資判断する際の材料のひとつである株主優待も、廃止や休止を発表する企業が相次いでいる。3月13日に高級和食店を展開する梅の花(7604)が、「新型コロナウイルスの感染拡大により業績への影響など将来の見通しが困難な状況(中略)、今後の業績改善を最優先とする」との理由で、店舗で支払いに使える優待券の廃止を発表した。飲食が20%引きになる優待証は残したものの、支払い全額を優待で済ませることはできなくなった。
これまでも業績悪化で優待を廃止する例がなかったわけではない。しかし、自社店舗で使える優待はクオカードやカタログギフトに比べて企業側の負担が少なく、廃止のリスクは小さいと考えられていただけに投資家が受けた衝撃は大きかった。優待廃止の発表を受けて同社の株価は、2月の高値から見て一時は半値以下まで売り込まれていた。
4月以降もメガチップス(6875)が3月末にすでに権利確定済みのカタログギフト優待の休止を発表、夢真ホールディングス(2362)はプレミアム優待倶楽部のポイント優待を廃止、はせがわ(8230)は期末配当の無配と優待廃止を発表した。コロナウイルスの影響とは明記されていないケースもあるが、ツカダ・グローバルホールディング(2418)、ユークス(4334)、ANAP(3189、iTunesカード優待を廃止、自社ショップ優待は継続)、サイバーステップ(3810)などが優待の廃止を発表している。
業績の問題だけでなく、感染拡大を防ぐ目的で提供できなくなった優待もある。エイベックス(7860)は毎年高齢のライブイベント「a-nation」のチケット優先予約の優待や株主総会後のミニライブを中止。KeyHorder(4712)も、所属するアイドルグループ「SKE48」などが出演するライブに招待する優待を、イベント中止を理由に休止した。
美容室を展開するエム・エイチ・グループ(9439)はヘアサロンあるいは公式オンラインショップで使える優待券を贈っていたが、店舗の「3密」を防ぐ目的で優待券の利用をオンラインショップのみに制限している。
ただ、コロナを理由になくなる優待ばかりではない。英国風パブを展開するハブ(3030)は「手元資金を確保する」と減配に踏み切ったが、その代わりに株主優待券の額面を2倍に拡充した。居酒屋「北海道」などを展開するコロワイド(7616)は、「収束した暁には(中略)外食業界に活力を与える契機とさせて頂ければ」との理由で、店舗で使える優待ポイントを3月末株主に1万円分増額している。大きな打撃を受けている外食業界にあって、歯を食いしばって株主に報いようとする姿勢は今後の株主還元姿勢を予測するうえで参考になりそうだ。
文■森田悦子(ファイナンシャルプランナー/ライター)