人生100年時代と言われるようになり高齢者の活躍も増えつつあったが、そこへ襲ってきたコロナ禍はこれまでの常識をさらに変えていった。諏訪中央病院の名誉院長である鎌田實氏(71才)が見てきた高齢者の変化や、全ての世代に向けたアドバイスとは──。
* * *
もしコロナにかかっても、入院したくないし、人工呼吸器にもつながれたくない──これがいまの医療や介護の現場で在宅ケアを受けている障害を持った高齢者から聞こえてくる、リアルな声です。志村けんさん(享年70)のように、コロナにより病院で死を迎えると、家族も最期に立ち会えないし、ただでさえてんてこまいな病院に迷惑をかけたくない。在宅での治療が可能ならそうしたいと、ぼくを含め、99%の高齢者が考えているのです。
これは非常に大きな覚悟を伴った“自己決定”だと思います。平常時は死にまつわる話を避け、「そうなったら息子に任せるよ」と言っていたような人までも、自分の最期をどうするか、真正面から向き合うようになったのです。
日本は、刑罰つきのロックダウンではなく、自主的なステイホームでコロナ禍を乗り切ろうとしています。そんな中で多くの高齢者が、自ら「人工呼吸器不要」と言い出しました。アメリカのデータをひもとけば65才以上のコロナ患者を人工呼吸器で治療した場合、97%が助からずに命を落としている。
高齢者が、自宅でのみ薬による治療は受けるが、未来を生きる可能性のある誰かのために人工呼吸器による治療をゆずろうとする。こうした風潮は、強制は許されませんが、自分で選択する人が出てくることはいいことです。
延命治療はしないと決めて「死」と向き合うと、次にわいてくるのは「その日までどう生きるか」ということ。