こういう組織だからこそ、もし本田宗一郎氏が再建のために乗り込んでいったら、社員は本田氏の下にまとまる。そこで本田氏が何をするかといえば、商品開発である。もっと面白い自動車、もっと皆が喜ぶ自動車の開発をするはずである。根っからのエンジニアで、ホンダの社長を務めていたときも、本社の社長室にはおらず、常に工場や開発現場にいた。日産の立て直しに入った場合でも、真っ先に工場や開発現場に行くに違いない。
今の日産の問題点は、商品力の低さである。ゴーン氏の経営下では利益の拡大が重要視されたため、新規投資が疎かになり、日産は2年半の間、従来車のマイナーチェンジのみでニューモデルを出さなかった。日本の自動車メーカーとしては由々しき事態である。
だからこそ、本田氏が新車開発にゴーを出し、開発現場に顔を出し続ければ、社員も鼓舞されておのずと面白い自動車が生まれてくる。そうして商品力を整えた日産が復活するというわけだ。
今まで上司の目を気にして働いたり、与えられた目標数値だけを見ていたりした社員も、本田氏の背中を見て仕事をするようになれば、日産の官僚体質も解消されていくだろう。日産というメーカーが本来持っているモノづくりの力を取り戻すことができるはずだ。
※週刊ポスト2020年8月14・21日号