何かとトラブルになりやすい相続において、遺言には強力な効力がある。その一方で、遺言に不満を持つ相続人は、最低限の取り分である「遺留分」を請求できる。
これまでは遺留分を求める遺産が不動産などの場合、共有名義にすることで解決を図ることが多かった。一般社団法人しあわせほうむネットワーク/司法書士法人リーガルサービス代表の野谷邦宏氏が語る。
「例えば亡くなった父が『事業の跡を継ぐ長男に自宅兼店舗1億2000万円、次男は預貯金2000万円を相続させる』との遺言を残したケース。これまでは、不満を持つ次男が法定相続割合の半額相当分の遺産を遺留分として請求すると、長男が相続した事業用資産が次男と共有状態となり、事業運営に支障が出ることがありました」
2019年7月からの新ルールでは、これまでの「遺留分滅殺請求」が遺留分を金銭で払う「遺留分侵害額請求」となり、現金に一本化された。
「このケースでは、長男が父の全遺産を相続してスムーズに事業継続できる半面、遺留分の1500万円を現金で払う必要が生じます。こうした事例で現金が準備できず、右往左往することが少なくない」(前出・野谷氏)
請求された遺留分を確定する際、「不動産は金銭換算でいくらになるのか」との疑問も生じる。
「預貯金と違い、自宅や事業用資産は必ずしも評価額を明確にできません。しかも一方は遺留分を節約するためなるべく評価額を下げたいし、他方は逆に上げたい。それぞれの思惑が食い違って決着がつかないことが多々あります」(前出・野谷氏)