菅政権の発足以降、急速に高まっているベーシックインカム(BI)の導入論。ベーシックインカムとは、政府がすべての個人に対して、生活に最低限必要な現金を無条件で毎月支給する制度である。
今回、導入論に火をつけたのは菅義偉首相のブレーンで経済学者の竹中平蔵氏(パソナグループ会長)だ。雑誌のインタビューやテレビ番組に出演し、コロナ禍では「究極のセーフティネットが必要だ」として、国民全員に“毎月7万円支給”を提案した。
だが、1億2000万人の国民全員に月7万円支給するには、年間ざっと100兆円の財源が必要になる。そこで、竹中氏は、「社会保障財源」をあてる案を提唱、今年8月に刊行した著書『ポストコロナの「日本改造計画」』でもこう書いている。
〈一人に毎月七万円給付する案は、年金や生活保護などの社会保障の廃止とバーターの話でもあります。国民全員に七万円を給付するなら、高齢者への年金や、生活保護者への費用をなくすことができます。それによって浮いた予算をこちらに回すのです〉
50代が危ない
実際に日本で導入されたらどうなるのか──。年金廃止とベーシックインカム導入の生活への影響は公的年金のタイプや世代によって差がある。最も損失が大きいのが、年金受給が近づく50代以降のサラリーマンとなる可能性がある。
厚生年金は給料から天引きされた年金保険料が報酬比例部分の年金額に反映され、厚労省のモデル年金の受給額は夫婦(妻は国民年金)で約22万円。しかし、年金が廃止されてベーシックインカムに置き換えられると、夫婦でベーシックインカム2人分の14万円しかもらえない。長年天引きされてきた高い年金保険料は“払い損”となり、収入は月8万円の大幅ダウンだ。
しかも、「年金がもらえないなら保険料は払わない」といいたくても、保険料が“ベーシックインカム税”に変わると支払い拒否もできない。