一方、国民年金加入者は、支給額だけは得するように見える。受給額は40年加入した満額支給で1人月約6万5000円。年金が廃止されてベーシックインカムの月7万円支給になったほうがもらえる金額は多くなる。
ただし、医療費や介護費用が全額自己負担となる。経済ジャーナリスト・荻原博子氏が警告する。
「年金が少ない人も、『月7万円』の甘言に騙されてはいけません。若い世代は働かなくてもお金がもらえるから歓迎するかもしれないが、高齢者の生活が窮地に陥ることは間違いない。社会保障が充実していない国であればともかく、日本で導入するには弊害が大きすぎます。これでは高齢者の生活はどんどん苦しくなる。高齢者の野垂れ死にを促す政策といえるでしょう。
もちろん、これほどの大改革には実施までに何年もかかり、経過措置もつくられるはずですが、そうなると、ちょうど制度が移行するときに年金受給を迎えそうな世代は、現役時代はベーシックインカムの1人7万円支給がなく、年金受給が始まる頃には厚生年金が廃止されて7万円ポッキリしかもらえないということになりかねません。現在の50代くらいの世代が危ないかも知れない」
すでに年金を受給している世代も、年金を今まで通りもらう“逃げ切り”はできそうにない。
ベーシックインカムの具体的な制度設計はこれから与党内で議論されるが、現在の年金制度は、現役世代が負担する保険料で、リタイア世代に年金を支払う「賦課方式」だ。年金が廃止されて現役世代の保険料がBI税として「1人7万円」の給付に回されれば、賦課方式が破綻し、受給者にそのままの年金額を支払い続けることは制度上、不可能になる。
財源がなくなるのだから、段階的にせよ、年金額は「月7万円」へと減らされていくはずである。
※週刊ポスト2020年10月16・23日号