菅政権が発足したことで、ベーシックインカム(BI)導入論が高まっている。ベーシックインカムとは、政府がすべての個人に対して、生活に最低限必要な現金を無条件で毎月支給する制度である。
BI導入のきっかけとなったのは、菅義偉首相のブレーンで経済学者の竹中平蔵氏(パソナグループ会長)。コロナ禍では「究極のセーフティネットが必要だ」と、国民全員に“毎月7万円支給”を提案した。
しかし、国民全員に月7万円支給するためには、ざっと計算しても年間100兆円の財源が必要になる。竹中氏は、年金や生活保護などの社会保障を廃止し、社会保障財源をBIにあてる方法を提案している。今年8月に刊行した著書『ポストコロナの「日本改造計画」』でもこう書いている。
〈一人に毎月七万円給付する案は、年金や生活保護などの社会保障の廃止とバーターの話でもあります。国民全員に七万円を給付するなら、高齢者への年金や、生活保護者への費用をなくすことができます。それによって浮いた予算をこちらに回すのです〉
あとは自己責任
現在の年金制度について、安倍晋三・前首相は国会で「100年安心は変わっていない」と抜本的改革の必要はないと説明してきた。
その安倍政権の方針を踏襲すると宣言して政権を受け継いだ菅首相が、社会保障制度をすべて廃止してベーシックインカムに一本化するような乱暴としか思えない改革に走り出したのはなぜか。日経新聞は菅首相の政治手法に関する竹中氏の興味深い発言を報じている(9月28日付電子版)。
「民間人が政策会議などでトスをあげる。それを受けた菅さんが強烈なスパイクを政策として打ち込む」
「だがスパイクなので改革は点になりがち。これを面にしていく政策が今後必要になる」
実務家の菅首相は、個別の政策課題への対処はできるが、かつてあるインタビューに「正直言うとね、国家観というものがそれまでは私になかったんです」と語ったことがあるように、ビジョン作りは苦手のようだ。社会保障改革も、本当の司令塔は「トス」をあげるセッター役の竹中氏らブレーンたちで、首相は行き先もわからないまま、提案されるまま改革を推進していく。