具体的には、税関への提出書類に買主の社判が必要になり、外装には『非医療用』と明記することが義務付けられ、さらに第三者機関による品質検査も求められるようになったということでした。私のほうで確認しても、それは確かに事実のようでした。中国では政策の変更はしょっちゅうなので、これはしょうがないと思い、通関できるように対応することにしました」
しかし、U氏によると、「非医療用」と明記した新しい外装に梱包し直す作業に特に時間がかかるとのことで、輸出政策の変更への対応が完了したのは5月11日。すでに支払いから3週間が経過していた。そして、ここにきてU氏は、「物流業者が見つからなくなった」と言い出した。
「『通関上のトラブルが急増していることから、どこの業者もマスクの海外配送に消極的になっている』というのが彼の説明です。その後、U氏から『船便なら輸出できる』と連絡が入ったのはその5月19日のこと。マスク5万枚は船便で、東京へと送られることとなりました」
やっとのことで届いたマスクは…
6月6日、U氏からのマスク5万枚を載せた貨物船は東京に着岸した。しかし、物流業者から、T氏のもとに貨物を下ろせないとの連絡が入る。輸送費や通関費用が未払いであることが原因だという。
「当初は、輸送費込みという話だったので、U氏にそのことを確認すると『輸送費は到着後の支払い条件だ』と言い出し、そのやりとりでさらに日時が経過した。ようやくマスクがA氏のもとに届いたのは、6月17日のことでした。しかし、発注・支払いから2か月近く経ち、この時既に、ネット上のマスク小売価格の最安値は、1枚10円ほどになっていて、大赤字確定でした」
この時点では、A氏もT氏もこの大失敗の原因を『中国当局によるマスク輸出政策の急激な変更』という不可抗力だったと認識していた。しかし、受け取ったマスクを見て、自分たちが騙されていたことを知る。
「まず、外装がまったく同じデザインのマスクが、4月末の時点で日本のネット上で1枚当たり20円ほどで売られていたことを知りました。つまり、4月上旬時点でU氏が提示してきた1枚40円という価格が、法外だったということです。そこで、通関時に提出されたインボイスを確認すると、原価は合計約100万円になっていた。U氏は原価の倍の値段で我々にマスクを売りつけていたんです。また、『非医療用』を明記した外装に梱包し直すために、通関に時間がかかったはずなのに、届いたマスクの配送にはそんな文字は書かれていませんでした」(T氏)
そして極め付きは、マスクが不良品だったことだ。