不妊治療支援、新婚補助、Go Toイート……と、菅義偉首相が打ち出す経済政策「スガノミクス」に注目が集まっているが、はたしてどこまで効果があるのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏がそこに潜む問題点を検証する。
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前号では「安倍政治の継承」を標榜している菅義偉首相の政策の誤謬について指摘した。今回は、さらに「スガノミクス」の問題点を検証する。
まず、少子化対策。菅内閣は「不妊治療への保険適用の拡大」と「新婚世帯に対する補助金の倍増」を矢継ぎ早に打ち出した。
現在、不妊治療で公的医療保険が適用されるのは、不妊の原因検査や排卵誘発剤を使う治療など初期段階の一部に限られ、高い費用がかかる体外受精などの高度な治療は保険適用外で、原則、全額自己負担となる。その経済的負担を軽減すれば少子化対策になるとして、菅首相自身が保険適用の拡大を明言したのである。
新婚世帯への補助金は、「結婚新生活支援事業」を実施している市区町村に住み、新たに婚姻届を出した夫婦が対象で、現行制度では「婚姻日の年齢が夫婦とも34歳以下」「世帯年収が約480万円未満」などの条件を満たせば、家賃や引越費用など新生活にかかる費用について30万円を上限に補助を受けることができる。この補助金の上限を来年4月から60万円に引き上げ、年齢と世帯年収の条件も「39歳以下」「約540万円未満」に緩和して結婚や出産を後押しするという。
どちらも意図はわかるが、効果は極めて限定的であり、それで少子化に歯止めがかかるとは思えない。とくに新婚世帯への補助金倍増は、結婚新生活支援事業を実施している自治体が全国1747市区町村のうち16%の281市町村(7月10日時点)しかないのだから、ほとんど意味がないだろう。
少子化問題を解決する方法は限られている。まず、スウェーデンやフランスのように、親が結婚していなくても、かつ親が誰かにかかわらず、生まれた子供はすべて無条件で国民として認めることだ。そのためには婚姻関係を結んでいない男女間に生まれた子供を「非嫡出子」として差別している戸籍制度の改革(戸籍の撤廃)から始めなければならない。