ただ、この出口調査には意外な事実も隠されています。性別と人種別の内訳をみると、黒人男性の19%、ラテン系男性の36%がトランプ氏に投票しています。多数派の陰に隠れがちですが、人種差別的な言動が目立つトランプ氏を黒人男性の5人に1人、ラテン系男性の3人に1人が支持しているのです
別の調査では、トランプ氏は非白人男性の30%、ラティーノの32~35%、アジア系の28~34%、インディアン(ネイティブ・アメリカン)の52%、LGBTQ(性的少数者)の27~28%、ムスリムの30%の票を獲得したとされ、大量得票の背後にマイノリティの支持があったことが示されています(The Weekly Dish “The Minorities Within Minorities”)。
BLM(ブラック・ライブズ・マター)の運動が全国的に広がったにもかかわらず、なぜ黒人男性の5人に1人がトランプ氏に投票したのか。この現象の説明として説得力があるのは「オバマ時代の8年間で黒人の生活は少しもよくなっていない」です。だったらオバマ政権の副大統領だったバイデン氏になっても同じで、トランプ政権の方がまだ期待できると考えたのかもしれません。
もうひとつは、「警察を敵視することで犯罪被害を受けるのは黒人貧困層」との説明です。BLMの活動家が主張するように警察予算を削減しても、郊外の高級住宅地に住む富裕層はなんの影響もないでしょうが、犯罪が多発する都市部の貧困地域でビジネスをしたり、子どもを育てたりしている人にとっては死活問題です。実際、BLM運動の余波で銃撃事件が増えたニューヨークでは、地元の黒人議員が「警察予算の増額」すなわちトランプ氏が主張する「法と正義」を求めることになりました。
左派が唱える理想(きれいごと)よりも、自分や家族の安全を優先するのは当たり前のことです。メディアはトランプ氏に「レイシスト(人種主義者)」のレッテルを貼ることに夢中になりすぎて、こうした現実を見失ったのではないでしょうか。
◆橘玲(たちばな・あきら):1959年生まれ。作家。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎文庫)、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『上級国民/下級国民』(小学館新書)などベストセラー多数。新刊は『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)。