米国を二分した大統領選挙はバイデン氏の勝利で一応の決着がついたようにみえるが、いまだ「選挙の不正」を訴えるトランプ支持者と、それらを「負け犬」と罵るバイデン支持者との間で衝突が絶えない。ラグビーのように、試合が終わっても「ノーサイド」とはならないようだ。はたして米国の分断社会が行き着く先はどうなっていくのか。大統領選を経てみえてきた「米国が抱える真の問題」について作家の橘玲氏が読み解く──。
* * *
今回の大統領選の投票行動を分析した米紙『ニューヨーク・タイムズ』の出口調査(有権者1万5590人を対象。エディソン・リサーチによる集計)をみると、バイデン氏に投票した有権者の典型が「女性」「非白人」「若年層「大卒」で、トランプ氏に投票した典型が「男性」「白人」「中高年層」「非大卒」でした。
アメリカ社会は深く分断しており、バイデン支持者とトランプ支持者とでは根本的にわかりあえないともいわれます。それが「白人対黒人」の人種問題につながるのですが、実はそれよりも深刻な問題があります。米国社会の分断の本質は「人種」ではなく「経済格差」なのです。
前回(2016年)の大統領選では、ラストベルト(錆びついた工業地帯)に吹きだまる白人労働者層(プアホワイト)がトランプ氏を熱狂的に支持し、大統領の座に押し上げたとされました。これが「白人対黒人」の人種対立と理解され、「白人至上主義」への抗議行動になるわけですが、じつはアメリカ社会では「富裕層対貧困層」の経済的な分断の方が顕著になっているのではないでしょうか。
今年日本で公開された米国のドキュメンタリー映画『行き止まりの世界に生まれて』(2018年)に、その実態を垣間見ることができます。ラストベルトにあるイリノイ州ロックフォードで暮らす、白人、黒人、アジア系のスケートボード仲間3人が主役の同作品では、彼らを取り巻く貧困や虐待が描かれています。
社会が人種によって分断されているのなら、貧しい白人の若者は裕福な同世代の白人を「仲間」とみなして、黒人やアジア系の貧しい若者といっしょにスケートボードをやろうとは思わないでしょう。ところがこの作品では、人種ではなく貧困という共通の体験が彼らの友情につながっています。ニューヨークやボストン、西海岸(シリコンバレー)に住む恵まれた白人には、ラストベルトで「行き止まりの世界」を生きるしかない白人の気持ちなどわからないのです。