主婦の家事労働は本当に大変な仕事だ。そして、誰であろうと、交通事故などの不測の事態に見舞われることはある。会社員であれば「休業損害」が認められるが、主婦の場合はどうなのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
2か月ほど前に、車で信号待ちをしていたら、後ろから追突されました。むち打ちや打撲がひどく、事故から10日間ほどはほとんど家事もできませんでした。その後はだいぶ回復しましたが、いまも通院中です。 今回の事故は全面的に相手に非がありますが、加害者側の保険会社から「専業主婦は収入がないので休業損害は支払えない」と言われました。専業主婦の場合、休業損害をもらうことができないのは本当でしょうか。(神奈川県、45才・主婦)
【回答】
結論から言えば、専業主婦であることを理由に休業損害が認められないということはありません。
交通事故に限らず、受傷による財産的な損害には治療費のように持ち出しになる損害(積極損害)のほかに、入るべき財産的収入が入らないことによる消極損害があります。休業損害はこの消極損害に含まれます。
専業主婦の行う家事労働は、収入にはなりませんが、他人に頼めば当然お金がかかることです。半世紀以上前に最高裁が、家事労働は金銭的に評価することができると判断し、さらに交通事故により主婦が家事労働に従事できなかった期間について、財産上の損害を被ったことになると判断しています。現在、交通事故による損害賠償の実務では、専業主婦であっても休業損害を認めるのが当然の扱いとされています。
専業主婦の休業損害の額の計算には、弁護士会の交通事故相談センターが公開し、広く利用されている算定基準が参考になります。そこでは、賃金センサス(賃金の統計資料)中の女性労働者の平均賃金を基礎にして、家事労働に従事できなかった期間の休業損害を計算することが提案されています。