「NHKは『Eテレ売却』で受信料を半額にできる!」(本誌・週刊ポスト12月11日号)──この記事で内閣官房参与の高橋洋一・嘉悦大学教授が提起した「Eテレ(教育テレビ)売却案」が大論争になっている。
高橋氏は、低視聴率のEテレの周波数帯を売却し、番組はネット配信にシフト、周波数帯売却で得た資金を受信料引き下げや経営スリム化の費用に充てるべき──と提案したのだ。
たしかに、NHK受信料のに対する視聴者の不満は多い。そもそもNHKの受信料収入は年間約7115億円(2019年度)、5年前より620億円も増えている。では、年間7000億円を超える受信料は、どのように使われているのか。視聴者が納得するような使い方なのだろうか──。
NHKの2019年度決算を見ると、受信料の半分が「番組制作費」(3605億円)に使われた。ジャンルごとの内訳を見ると、5年前(2014年度)と比べ「報道・解説」番組にかける費用の割合が減り、「ドラマ」「エンターテインメント」「科学・自然」など娯楽番組の制作費の割合が増えたことがわかる。『NHK独り勝ちの功罪』などの著書があるジャーナリスト・小田桐誠氏が語る。
「NHKはかつて地デジ普及のために製作したスペシャルドラマ『坂の上の雲』(全13話)では資金に糸目をつけずに10数か国で海外ロケ、1頭8時間で20万円ほどの馬を何頭も借りて使うなど人件費や施設費を除外した直接経費で250億円近い制作費をかけたとされる。潤沢な資金があるからと娯楽番組に資金を投じる体質は現在も変わっていない。制作費が民放とはケタ違いに多い」
そうした報道軽視・娯楽重視の傾向を憂慮するのが元NHKワシントン支局長の外交ジャーナリスト・手嶋龍一氏だ。報道の現場で後輩記者を指導する立場にあったため、独立後も古巣の批判を控えてきたが、NHKの報道の在り方への危機感を初めて本誌・週刊ポストに語った。
「NHKしかできないのは民放のような娯楽番組ではなく、質の高い報道やドキュメンタリーですが、この1年間で、“これぞNHK”と思えるドキュメンタリーは見ていません。
報道のクオリティはより深刻です。本来、受信料で経営しているから、民放と違って企業への配慮などがぐんと少なくていいはず。報道機関として独立の立場で視聴者の負託にのみ応える踏み込んだ報道で期待に応えていれば、受信料を払ってくれている方々は多少の注文はあってもNHKを支えてくれると思います」