河野太郎・行政改革担当相が「脱ハンコ」に向けた取り組みを積極的に推進する方針を示し、ハンコ業界が岐路に立たされている。朱肉なしハンコ市場で8割超のシェアを持つシヤチハタはどう動いているのか。舟橋正剛社長(55)に訊いた。
──このシリーズではまず平成元年(1989年)に何をしていたかを伺います。
1988年にアメリカのリンチバーグ大学経営大学院に留学し、英語のヒアリングやスピーチにようやく慣れてきた頃でした。MBA(経営学修士)コースに進み、渡米中の4年間、一度も帰国しなかった。授業についていくのに必死でしたね。
当時のクラスメートはほとんど社会人で、彼らと家族ぐるみでお付き合いさせていただいたこともいい経験になりました。
──その後、帰国して就職します。
当時はアメリカの景気が良くなかったので現地での就職は諦め、電通さんにお世話になりました。4年間の在籍期間のうち、3年は東芝さんを担当しました。大きなイベントやプロモーションを通じて、商品を売るための最善策を考えた毎日でした。その経験値が、1997年にシヤチハタ入りしてからも役に立っています。
“痴漢防止スタンプ”が話題に
──2006年に父・紳吉郎氏(現・会長)の後を継ぎ、シヤチハタの社長に就かれます。
社長になってまもなくの2008年、リーマンショックという難局にぶち当たりました。シヤチハタは1925年の創業以来、一度も赤字を出したことがなかったのですが、あの時は事務系消耗品の売れ行きが大きく落ち込んで赤字を免れなかった。それ以来、「このままではいけない」と、商品の多角化を考えるようになりました。
それまでは法人向け商品がほとんどでしたが個人向け商品の比率を徐々に増やしていった。子供が楽しく使えるもの、シルバー層の方がレクリエーションで使えるもの、というようにカテゴリーを分けて新商品を作っていきました。