インターネットの登場で、日本人の生活も大きく変化した。オンラインショッピング、サブスクリプションサービス、リモートワーク……どれもネットありきのサービスだ。25年前からこうした未来を予見していたのが、ソニーで「名経営者」と呼ばれた出井伸之氏である。83歳にして現役経営者としてベンチャー企業を育成・支援している出井氏に、これからの日本の生き残り戦略を聞いた。
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〈出井は中国・清華大学の顧問委員を務めている。出井の他、イーロン・マスク(テスラCEO)、ティム・クック(アップルCEO)、スティーブン・シュワルツマン(ブラックストーンCEO)など錚々たる人物が名を連ねる。彼らは定期的に集まっては、大学の方向性や取り組むべき分野、また必要な教授陣をどう確保するかと言った領域にまで議論をする。だから、清華大学の教授陣の給与は能力によって全く異なる。就労年次によって給与が決まる日本の多くの大学との違いだ。〉
常に競争があって、ドラスティックに変化しようとする中国と比べると日本は寝てるんじゃないかとも思ってしまうほど。しかし、最近は日本には日本のよさがあることも感じています。
慶應大学環境情報学部教授、安宅和人さんは、著書『シン・ニホン』のなかで日本の中に『風の谷のナウシカ』の「風の谷」のように、これからの人間が都会から離れ自然と共存し豊かな生活を営む場所をつくろうと言っていますが、僕は日本が世界にとっての「風の谷」になればいいと思っているんです。勝ち負けや成長より平和と環境と伝統を大切にする場所になれば、世界中から、特にアジアから人々が日本に来たがる。そういう国を目指せばいいと。
そして、一方で稼ぐのは国内よりもアジア。日本が成長するチャンスは、多くの国が成長し世界経済の中心になるアジアにどうコミットするかにかかっていると思う。これだけ洗練された製造業の知識と技術があれば、必ずアジアで求められるし、日本を成長させてくれる巨大なエンジンになるんじゃないかと思います。日本人はグローバル化というと「外国人の下で働く」とイメージしますが、そうじゃない。外国に行って企業を買収し、トップを取る。それこそがグローバル化です。