1975年と比べて車両数は減っている?
最高速度が時速にして75km、所要時間にして43分早まることにより、どれくらい輸送効率が上がったのか。朝6時に東京駅をスタートして新大阪駅で折り返し、東京駅に戻ってきてまた折り返すというサイクルで、1日に東京~新大阪間を何度結ぶことができるか、当時と現在を比較してみよう。計算を単純化するため、東京駅や新大阪駅での折り返し時間は0分と考えた。
結果は、東京~新大阪間を3時間10分で走った場合は5回(2往復半)、2時間27分で走った場合は7回(3往復半)だった。単純計算で7÷5=1.4と、計画時より現在の方が1.4倍多く列車を運行できることになる。計画時に設定された1日の運行可能本数は100本であるから、おおざっぱに言えば、100×1.4=140本の列車が運行可能となったのだ。加えて、車両の加速力やブレーキ力向上のほか、信号保安装置の進化で列車の運転間隔が最短2分にまで縮まったことも、運行本数の増加に大きく寄与している。
一方、運行に必要な車両数は、列車の本数とは比例しない。1975年の山陽新幹線の全線開通時を例に見てみよう。1975年時点の東海道新幹線の平日の営業列車は、上下合わせて235本で車両数は2128両だった。現在の平日の運行本数は313本と約1.3倍に増えているため、本来なら車両も1.3倍の2766両必要となる。しかし現在、東海道新幹線の車両数(山陽新幹線に乗り入れている車両も含む)は2736両(JR東海2096両、JR西日本640両)であり、30両少ない。
東海道新幹線よりも距離が長い山陽新幹線をも忙しく走り回っていることを考えると、30両どころか100両単位で車両を増やしてもおかしくないはずだが、速度が向上した分だけ車両を増やすのではなく、加速力やブレーキ力を向上させるなど、少ない車両数で効率的に運行できるよう工夫してきた。「鉄道車両等生産動態統計年報(2019年度)」によると、2019年度に製造された新幹線の車両価格は1両あたり平均1億6015万円であったから、30両少ないだけでも48億円、100両ならば160億円節約できる計算だ。
列車の速度を上げると電力消費は増えるし、騒音や振動対策も難しくなってしまう。しかし、省エネで環境に優しい車両を開発してスピードアップを図れば、貴重な線路を有効活用でき、なおかつ列車の本数に対して少ない車両数で営業できるのだ。
【プロフィール】
梅原淳(うめはら・じゅん)/鉄道ジャーナリスト。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)入行。雑誌編集の道に転じ、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に独立。現在は書籍の執筆や雑誌・Webメディアへの寄稿、講演などを中心に活動し、行政・自治体が実施する調査協力なども精力的に行う。近著に『新幹線を運行する技術 超過密ダイヤを安全に遂行する運用システムの秘密』がある。