2021年、企業の在り方も個人の生き方も大きな変革が求められるなか、日本はどこへ進むべきなのか──。総務副大臣時代の菅義偉氏とともに規制緩和に取り組み、総合規制改革会議議長も務めた宮内義彦氏(85)は、総理の椅子に登り詰めた菅首相の舵取りをどう見ているのか。
「Go To」で景気は上がらない
──現在、日本経済は新型コロナウイルスというかつてない危機に直面しています。政権発足から4か月たったいま、菅義偉・首相の手腕をどう評価する?
宮内:菅さんとは、彼が総務副大臣だった2005年頃からの細く長い付き合いです。当時、菅さんは小泉政権下で竹中平蔵・総務相とともに、郵政民営化やIT改革など数々の規制改革を推し進めていたので、私と顔を合わせることが多かった。
菅さんを一言で評すると「各論に強い勉強家」だと思います。それは安倍(晋三)前首相のマクロ観と比べても際立っている。十分な知識と突破力があるので、政策を具体的に実行する能力は高い。規制改革も着実に実現してくれるのではないかと期待しています。
──「Go Toキャンペーン」の一時停止をめぐる経緯など、コロナ対策で菅政権の支持率は大きく下落しました。
宮内:率直に言わせてもらえばコロナ禍における経済政策、とくに「Go Toキャンペーン」はとても難しい政策と見ていましたね。心理的に感染拡大を助長しかねないだけではなく、景気浮揚策としては不十分だとも感じていました。
「Go Toトラベル」にしろ、「Go Toイート」にしろ、「支払いの何割かを国が負担する代わりに国民に積極的な消費活動をしてほしい」という、言わば「消費者頼み」の発想です。これでは危機に瀕している事業者にとっては焼け石に水です。消費者への需要喚起も限定的だと言わざるを得ません。キャンペーンが終了してしまえば、消費者は割高感を覚えて消費しなくなるでしょう。
今まさに国が行なうべきは、人の移動を最大限制限する代わりに広範な補償を行ない、企業と社員の雇用と所得を守ることです。莫大な費用が必要にはなりますが、そこまでしなければこの難局は乗り越えられない。
──「Go To」は愚策ということ?
宮内:「Go Toキャンペーン」は、そもそもの発想が飲食業界、観光業界という「供給側」の視点に立ちすぎている。本来であれば消費者側の視点に立って、もっと「需要」を喚起していかなければならない。自分たちの仕事がなくなるかもしれないというときに、旅行や食事が割引きになると言っても需要喚起の効果は限定的になってしまいます。