人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第10回は、コロナ禍がもたらした「貧富の差」について分析する。
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新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えないなか、世界的に「貧富の差」も拡大の一途を辿っている。皮肉なことに、その要因は各国のコロナ対策によるところが大きい。
各国の中央銀行は、コロナで打撃を受けた経済を下支えするため大規模な金融緩和を進め、政府も給付金などをばら撒いてきた。だが、市場に溢れたお金は実体経済に広く行き渡っていないのが実状だ。外出自粛ムードの高まりで人々が出歩いていないため、お金を使いたくても使えない。では、どこにお金が流れているかと言えば、主に株式市場である。
米国では、NYダウやナスダック総合指数が史上最高値更新に沸き、日本でも日経平均株価が30年ぶり高値を更新するなど、空前の株高が続いている。ただ、この株高の恩恵を受けられるのは、もともと株を大量保有していた大株主や、株を買えるだけの余裕資金がある投資家に限られる。
米国では、電気自動車メーカー、テスラの株価が昨年3月の100ドル前後から今年1月には800ドル超と8倍以上も高騰。米誌フォーブスによると、大株主である創業者のイーロン・マスク氏の保有資産額も昨年3月の246億ドルから今年1月には1897億ドル(約19.8兆円)へと膨れ上がっており、世界一の富豪とされてきた米アマゾン・ドット・コムCEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾス氏と並ぶほど資産を激増させている。米国では、上位10%の富裕層が全体の8割超の株を保有しているとされ、バイデン新大統領も1月14日の演説で「コロナ危機以来、トップ1%の富裕層の資産が約1.5兆ドル(約160兆円)増えた」と指摘している。
日本でも、長者番付で1、2位を争うソフトバンクグループ会長の孫正義氏が2.5兆円(昨年10月末時点)、ユニクロを展開するファーストリテイリング会長の柳井正氏が1.5兆円(同)もの株を保有する「株長者」ぶりを見せている。
その一方で、コロナ対策で給付金が配られたとはいっても、大きな打撃を受けている飲食や宿泊、交通関係などに従事する人々は青息吐息である。給与が減るだけでなく、失業に喘ぎ、住むところもなくなるケースまで聞こえてくる。今年1月には、首都圏を中心に2度目の緊急事態宣言が発出され、時短要請に応じた飲食店には一律1日6万円の協力金が支給されるというが、小さな店ならまだしも、多くの従業員を雇う大規模な店の場合、人件費や家賃、光熱費といったコストを考えると割に合うわけもない。耐え切れなくなって廃業に追い込まれるところも出てくるに違いない。