見方によっては「共謀による相場操縦」と言える。日本株の例で説明すれば、「コロナ禍で苦しむJALを救おう」でも「近畿日本ツーリストを救おう」でも何でもよい。ネット上で、「みんながこんな苦しい時に空売りで儲けようとするヘッジファンドたちは許せない。踏み上げさせよう」と叫んで、簡単に共謀による株価操作が可能となってしまう。こんなことがまかり通るようなら、市場が正常に機能しなくなるのではないか。
当然、アメリカでも「これは相場操縦だ」という声が上がっている。民主党の有力政治家であるエリザベス・ウォーレン議員は29日、SEC(米国証券取引委員会)に質問状を送っている。個人投資家たちの行動は相場操縦に当たると指摘しており、状況報告、相場操縦の防止策について2月5日までに返答するよう求めている。
証券会社側も何もしなかったわけではない。すぐに関連商品の売買を停止する措置を打ち出したものの、マスコミ、一部の政治家たちの厳しい批判に遇って、すぐに制限付きではあるようだが売買再開を余儀なくされている。
新しく参戦した個人投資家たちは、そこまで証券取引ルールに詳しくない。投資家教育が必要だと言ってしまえばそれまでだが、問題はもっと根深いのではないか。
そもそもヘッジファンドたちは違法行為をしていないのか。相場操縦などしていない、フロントランニングなどしていない、品行方正にルールを守って取引を行っているのか。業界関係者の間ではこうした点に疑問を持つ人たちも少なくない。
これは証券市場だけの問題ではない。この数十年の間にアメリカで進められてきた規制緩和、自由化といった大政策が各方面でほころびを見せているのではなかろうか。減税が進んだことによって、各市場に大きな活気が生まれることになった。それはもちろん良いことであるが一方で、規制が撤廃され、残った規制に対する監視が不十分になる中で、様々な問題が起きている。
民主党左派の声が強まりそうな状況で、バイデン政権は行政手腕を問われることになりそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動中。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。