老後生活には2000万円が必要──2019年にはそんな「老後2000万円問題」も話題になったが、定年後の家計を安定させるには、夫婦間でお金に関する理解の共有が必要だ。とくに、金銭感覚のすり合わせを実践すべきとして、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝さんはこんなアドバイスを送る。
「感覚が変わらないという人の多くは、月の収入と支出を把握していません。奥さんが家計を管理してしまうと夫に実感がわきづらい。定年後は当然収入源が限られます。アルバイトでもしていない限りは年金が主な収入で、それ以外は貯金を取り崩す夫婦が大半ですが、月の支出が総額いくらで、年金だけでは不足するお金がいくらか、その分の取り崩しをいまの貯金からすると何年もつのかなど、お互いに理解しておく必要があります」(山中さん・以下同)
とはいえ、夫婦であっても、お金に関する話は切り出しにくい。そんなときは、第三者の話をフックにするといい。
「たとえば『お友達の旦那さんが倒れて、通帳や印鑑、保険証書のありかがわからなくて困っていた』などとそれとなく話し、うまくお金の話を切り出してみてください。実際に夫婦のどちらかが倒れるリスクは20年前と比べて格段に高くなっている。ましてやどちらかに障害が残れば、否が応でも家のことはすべて、残るひとりがやることになります。そういった現実味を夫に感じてもらうことも重要です」
もちろん妻も、お金の収支や残る財産をきちんと把握しておくべきだ。
「お互いに知っておけば、逆算して月にいくらまでなら使ってもいいか決められます。時々『夫が定年後に旅行に連れて行ってくれたけど、こんなにぜいたくしても大丈夫なのかしら?』と不安がっている奥さんが相談に来ますが、今後30年の生活費およびお小遣いとして使える額を把握していれば、不安なく旅行を楽しめる。まずは知ることから始めてください」
浪費はもちろんNGだが、切り詰めすぎると味気ないだけでなく不便な生活になる。
「よくコストカットのために車を手放すという話を聞きますが、よっぽど都会に住んでいないかぎり不自由になります。そこまでがまんするなら、シルバー人材センターに登録して、その分、コツコツと稼いだ方が心身の健康にいい」(『定年ちいぱっぱ 二人はツライよ』の著者・小川有里さん)
また、これまでサラリーマンとして過ごしてきた人にとっては、定年退職後に「毎月の収入」がなくなることは大きい。
「公的年金の支給日は2か月に1回、偶数月だということを、改めて夫に認識してもらいましょう。勤めている間は毎月1回お給料が振り込まれていたので『月末まででいくら使える』と考えてしまいがちですが、そのスパンが倍になる。直しておかないと、使いすぎてしまうこともある」(山中さん)