コロナ不況の終わりは見えず、失業する人や生活が苦しくなる人も多い。生活保護に助けを求める人もいるが、中には申請が却下されることも……。生活保護受給のためにはどのような要件を満たす必要があるのだろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
コロナ禍で失職、生活がどん底に困窮。そんな折、菅義偉首相が「最後は生活保護がある」と発言したので、役所に申請したところ、うまくいかず。原因は担当者。「健康なのに仕事がないのは、人間的に欠陥があるからだ」といわれました。この発言、悔しくてたまりません。担当者を名誉棄損で訴えられますか。
【回答】
生活保護の要件は「生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用すること」です。この利用し得る能力を活用することを「稼働能力活用要件」といいます。
その要件を満たしているのに、最低生活ができないことが生活保護の前提です。さらに親、兄弟などの扶養義務者の扶養が生活保護より優先されます。扶養義務者は、その扶養義務の範囲内で、支給された生活保護費の負担を求められることがあります。生活保護の申請時、扶養義務者の扶養の状況の説明も必要で、役所は扶養義務者の資産収入の状況を調査し、扶養義務者が扶養義務を果たしておらず、保護費の負担を求める可能性が高い場合、生活保護申請があったことを通知したり、報告を求めることができます。
そのせいで親兄弟や親戚への迷惑を恐れ、必要な生活保護の申請をためらう人が少なくありません。緊急の場合には例外があるものの、核家族化が浸透し、少子化が進み、親戚付き合いも薄れている今日、見直すべきと思います。
ご質問の窓口担当者は、法の厳格適用をしようとする余り発言したのでしょうが、失礼な人格無視で、あなたの名誉感情を傷つける侮辱行為といえます。訴えてもよいのですが、生活保護のほうが重要で、その場合は稼働能力活用要件を満たしているかが問題です。
熱心な求職活動にも拘らず、年齢や住まい等の事情により、就労できない場合には、要件を満たしていると思います。事情を説明しても、役所が人格否定発言をして生活保護を認めないとすれば、生活保護法違反ですし、窓口職員の対応により傷ついた精神的苦痛も、国家賠償法に基づく損害賠償の対象になります。弁護士会の法律相談を受けるとよいでしょう。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2021年3月19・26日号