真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

「実感なき日経平均3万円」 なぜ個人投資家の利益につながらないのか

「近視眼的損失回避行動」と「双曲割引モデル」

 こうした投資行動は、行動経済学でいう「近視眼的損失回避行動」、あるいは「双曲割引モデル」というものが引き起こしていると言える。

 人間は、なかなか長期的には物事を捉えられず、目先の利益を優先してしまう。例えば子どもに「今日ならマシュマロが5個もらえるけど、明日まで待てば10個に増えるよ」と言っても、明日まで待てずに今日の5個をとってしまう。それが「近視眼的損失回避行動」だ。

「双曲割引モデル」もこれに似ていて、例えば「今1万円もらうのと、1年後に1万1000円もらうのでは、どちらがいい?」と聞かれても、ほとんどの人が今の1万円を選んでしまう。将来のお金の価値を現在の価値に換算するレート(率)を「割引率」と言うが、期間が長くなると「割引率が低くなる」と考えてしまい、そこまで待てない心理に陥るのだ。

 こうした行動は株式投資だけでなく、こんなシーンでも見られる。例えば、今は10兆円の景気対策を打つけど、その代わり将来的には12兆円の増税も避けられないと言われた場合などだ。冷静に長い目で見れば、あとで差し引き2兆円の負担増になるのに「いまだけ景気を良くしてくれればいい」と考えて政策を鵜呑みにしてしまう。ついつい目の前の誘惑に勝てない人間の“性”と言ってもいいだろう。

 本気で投資で勝とうと思ったら、そうした人間心理があると認識して、自ら“つっかえ棒”を作って踏みとどまることが大切だ。目先の動向に左右されることなく、冷静な判断をして安く買って高く売ることを心がけたい。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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