人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第15回は、相場全体は高値圏なのに個人投資家の懐が潤わない理由について分析する。
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日経平均株価は2月に3万円の大台を突破したが、急速な相場の回復ぶりに対する市場参加者の高値警戒感や、米長期金利の動向などに左右され、2万9000円を割る場面もあるなど乱高下が続いている。だが、依然として高値圏であることに変わりはない。
この株高は、景気回復期待はもとより、コロナ対策として各国中央銀行が金融緩和で市場に投入した資金のほか、日銀などがETF(上場投資信託)を購入して買い支える「官製相場」によるところが大きい。それゆえ、株を買えない人々はもちろん、機関投資家のように大量の資金を投じられない個人投資家のなかからは「日経平均がいくら上がっても、自分が持っている株は全然上がらない」といった声が聞こえてくる。一部の富裕層を除いた「実感なき日経平均3万円」の様相を呈している。
なぜ「実感」できないのか。簡単に言えば、高い時に買っているからだろう。人間の心理として、株価が安い時には株を買いたくなくなり、高くなると買いたくなる。本来、株は安く買って高く売ることで儲かるものだが、どうしてもそれとは正反対の投資行動に出てしまいがちとなるため、「高値掴み、安値売り」に陥ってしまうケースが後を絶たない。身も蓋もない話をしてしまえば、人間は本来、投資行動に向いていない生き物なのである。
ここ1年ほどの相場で言えば、昨年3月、日経平均が1万6000円台まで下がっていたところで買っていれば大きく儲かっていたに違いない。しかし、現実にはそこではなかなか手を出せず、昨年11月以降に2万4000円を超え、いよいよ3万円台に近づきそうになってきたところで買った人は少なくないはずだ。そうなると、大きな波で見れば、結局は「高値掴み」に陥るだけで、大きな儲けにはつながらなくなってしまう。