「最底辺の仕事」と自嘲する交通誘導員は多いが、この仕事を希望するシニアは後を絶たない。
「正直、いまの日本で60才以上が再就職を考えたとき、選択肢になるのは介護や清掃、交通誘導員くらいでしょう。なかでも交通誘導員は資格がいらず、シフトも融通が利き、研修を3日ほど受ければすぐ働くことができます。コロナの影響も多少はあるものの、基本的にいつも人手不足で、そのうえすぐにお金がもらえるため、働き口を求める高齢者の大きな受け皿になるんです。
いまの高齢者は、ある程度年金を受給している人でも、老後に漠然とした不安を抱えて生きています。そういうシニアにとって交通誘導員は、命綱でもあるのです」(柏さん)
「お金以外に得たものもあったと思う」
2019年には金融庁が「老後資金に2000万円必要」との報告書を出して話題となった。ひと昔前は定年になったら後は退職金と年金で悠々自適な暮らしが当たり前だったが、いまは働く期間が延長されるうえ、年金の支給開始が遅くなり、受給額も下がっている。
決して快適ではない労働環境でもシニアが働き続けるのは、「働くのが楽しい」というだけでなく、「先立つものが必要」というリアルな理由もあるはずだ。
実際に人材サービス会社「アデコ」が2019年に働くシニア400人と人事担当者400人を対象に行ったアンケートで「シニアが働いている理由」でダントツとなったのは、「現在の生活のためにお金が必要だから」という回答。次いで「老後の資金のために貯蓄をする必要があるから」というシビアな結果となった。
「交通誘導員をやっていて楽しかったことは、正直なかったね(苦笑)。夏の暑さや冬の寒さ、台風といった肉体的なしんどさもあるし、ドライバーからの罵声や職場の人間関係などのストレスもあるからね。
だけど年齢も前歴も職種もさまざまな人と一緒に仕事をすることで、自分がどんな人間か見つめ直すことができた。確かに生きていくための手段として始めた仕事だったけれど、お金以外に得たものもあったと思います」(柏さん)