22時過ぎにAさんはこの店を出たが、その際、店員からこんなお願いをされたという。
「あのぉ、店を出る時、『お疲れさまでした! 明日もよろしくお願いします!』と言ってください」
つまり、客に対して「店員のフリをしてもらえないか」というお願いだった。なぜここまでして“闇営業”を続けるのだろうか。飲食業界に詳しいフリーライターはこう解説する。
「緊急事態宣言の発令時と同様、まん延防止等重点措置に伴い、東京都でも時短要請に協力した飲食店事業者には協力金が支払われる予定です。とはいえ、協力金だけでは家賃や人件費を払えない飲食店が多いのも事実。表向きは時短営業に従っているフリをして協力金をもらいながら、20時以降も営業して売上を上げようと考える飲食店も存在します。
客に店員を装ってもらう“偽装”は、都の職員の目を欺くためというより、周囲の飲食店から『あそこは“闇営業”している』と告げ口されないためのものでしょう」
こうした手口がまかり通ってしまうと、正直に時短要請に従っている飲食店がバカを見ることになる。だが、客の立場からすると、20時以降も営業している飲食店の存在がありがたい面もあるようだ。前出・Aさんが語る。
「仕事柄、打ち合わせが20時を過ぎることは多いので、“闇営業”だろうがなんだろうが、開いていてくれてありがたいです。先週は夜ご飯を食べられなかった日が2回ありました。出張に行った時は、空港のコンビニも閉店していましたし、開いていてもおにぎりとかは売り切れていたので、私としては“闇営業”には感謝しています。店員のフリを求められたら、喜んでやりますよ」
ルールを無視した飲食店が客に感謝される状況を、どう捉えるべきなのか。有名無実化した時短要請は、社会に様々なひずみを生み出しているようだ。