金銭トラブルにおいて、弱い立場にある人が返済や利子などの負担以外にさまざまな圧力を受けることがある。もしも、そういった理不尽な状況に置かれた場合、どう対応したらいいのか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
夫は以前勤めていた会社の同僚だったAさんといまもつきあいがあります。夫はAさんから50万円を借りていて返済中なのですが、何かにつけて呼び出され、いいように使われています。仕事などを理由に誘いを断ると、「おれから借金していることを会社にバラすぞ」などと言われるため断れません。このままでは返済し終わった後も脅されかねません。どうしたらよいでしょうか。(神奈川県・43才女性)
【回答】
借金を返すのは当然です。しかし、返せないからといって意に反した行為を強制される理由はありません。
金銭消費貸借契約に基づいて授受されるのが借金です。契約によって借主に借金を返す法的義務が課され、貸主には返還請求できる権利が生じます。しかし、どの契約でもそうなのですが、契約違反した相手に何らかの行為を直接強制することはできません。Aさんには借金のカタにご主人を「いいように使う」権利などもともとないのです。ご主人が断れば、Aさんはご主人ではなく裁判所を使って、返金を受ける権利を行使できるだけです。その結果、ご主人に財産があれば失うことにはなりますが、借金したのですからやむをえません。そのことを覚悟すれば、Aさんの理不尽と思える要求を拒否すればよいのです。
とはいえ、実際には財産は惜しいし、裁判を起こされるのを避けたいのが人情です。そのため借金の弱みもあって、貸主の言うことを聞きがちになります。しかし、仮にAさんがご主人を借金漬けにして、奴隷のようにこき使っているということであれば、別の問題があります。人間をお金で縛って自由を奪うことはできません。
例えば、労働基準法では暴行、脅迫などで精神的・身体的な自由を奪う強制労働を禁じていますが、お金を前貸しして精神的に労働者の意思を縛って働かせることも厳禁です。