そこで、Aさんが最初からご主人を奴隷扱いすることを目的にお金を貸していたとすれば、公序良俗違反で契約は無効になります。無効でも受け取ったお金は返すべきですが、強制目的という不法な原因によって渡された場合は、返却義務なしとの理屈が立つ可能性もあります。
いまはご主人の会社に「借金の通知をするぞ」と言って従わせようとしているそうですが、借金は知られると不安を感じたり、困惑する私生活上の秘密ですから、会社への通知は、プライバシー侵害に当たるだけでなく、社会的評価を貶めて名誉を毀損することにもなります。ご主人を自分の思うようにさせるために通知するのですから、こうした民事上の不法行為にとどまらず、名誉に害を加えることを伝えて義務のないことを行わせようとするものとして刑法の強要罪に問われることもあります。Aさんが本気なら警察に相談してください。
しかし、Aさんは、返済が終わらないご主人にしびれを切らしているのかもしれません。しっかりした返済計画を立てて安心させ、違法な行為をしないよう納得してもらうことが先決のように思います。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2021年4月29日号