イノベーションを「買う」というビジネスモデル
医薬品市場は世界全体で130兆円を超える巨大産業だが、新薬の開発には多額の資金、長い年月の開発期間がかかる。しかも、その開発が上手くいく保証はない。規模が中堅以下の医薬品メーカーは生き残りをかけた競争を勝ち抜いて行かねばならず、そうした状況は巨大市場を背後に持つ中国企業でも同様だ。
Frost & Sullivanの調査によれば、2019年の中国美容医療市場は1769億元(2兆9365億円)。エランセ、ヒアルロン酸注入のような非手術美容医療の分野は、利用者の痛みが小さく、回復にかかる時間は短い。患者にとってリスクが小さいことから、今後大きく伸びる可能性が高い。前述の調査によれば、5年後の2024年には45.3%増加すると予想している。
華東医薬は2013年、韓国LGからヒアルロン酸の中国国内における独占販売権を取得、美容医療の分野に参入した。2018年には、1億6900万ポンド(254億円、1ポンド=150円で換算)でSinclair Pharma Limitedを買収した。今後は、この買収先を活用して、中国国内市場を開拓しようとしている。
自社に開発する能力がなければ、開発能力のある企業を買収すればよいという考えだ。経営者がしっかりとした目利きの力を持ち、資金調達力、リスクを取る胆力、買収企業を上手く管理する能力があれば、イノベーションは買うことができる。
日本国内にはイノベーションを起こせる企業が少ない。ならばグローバルでそうした企業を見つけ買収するという選択肢もある。それができないというのなら、経営者、金融機関はどう変わればよいのか。この辺りに日本経済が成長を取り戻すためのカギがあるのではないだろうか。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動中。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。