真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

「どうして私だけ…」緊急事態宣言で増幅される「不公平感」の正体

コロナ禍の株高でソフトバンクは過去最高益を更新(写真/時事通信フォト)

コロナ禍の株高でソフトバンクは過去最高益を更新(写真/時事通信フォト)

孫正義氏は国内長者番付で1位に

 人々の相対的幸福感を支えるためには、政府の役割も大きい。例えば今回の緊急事態宣言のケースで言えば、居酒屋などの飲食店はある程度の休業補償が受けられるが、酒の卸売業者などは補償されない。同じようなダメージを受けるはずなのに、政策の恩恵を受けられる人と受けられない人がいれば、社会の不公平感、不満は蓄積して当然だ。その結果、社会は不安定化しやすくなってしまう。

 皮肉なことに、格差拡大を助長してきたのも「政策」と言えるだろう。各国の金融当局は、コロナ対策として大規模な金融緩和を推し進めてきたが、その恩恵を受けたのは本当に困っている人々ではなく、株式市場をはじめとする金融市場の参加者だった。実際、資産を持つ者と持たざる者の格差は広がる一方だ。

“持てる者”の象徴的な存在がソフトバンクグループだろう。通信会社ソフトバンクを傘下に抱えてはいるものの、同社の主な事業は国内外への投資である。世界的な株高を背景に、投資先の新興企業の上場などで利益が押し上げられ、同社は2021年3月期決算で4兆円を超える過去最高益を見込んでいると言われる。あのトヨタ自動車ですら、過去最高益は2018年3月期の約2.5兆円であるから、ソフトバンクグループは国内でもダントツの利益を上げる企業となる見通しだ。同社は、投資先の不振によって前年度(2020年3月期)は過去最悪の1兆円近い巨額の赤字を計上したが、それから一転、株価に大きく左右される同社の業績はまるで“時代のあだ花”のようにも映る。

 加えて、『フォーブス』の2021年版長者番付によると、同社を率いる孫正義・会長兼社長が保有する資産は昨年の2倍を超える4兆8920億円にものぼり、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長を抜いて国内1位となっている。これもまた、当局の金融緩和を原動力とした株高の恩恵と言えるだろう。

 そんな“株長者”をしり目に、サービス業などで働く人たちはますます困窮を極めている。行き場を失った在庫に苦しむ酒の卸売業者はもちろん、飲食店でパートで働くシングルマザーなどの貧困が加速するのは想像に難くない。イベント関連でも、歌舞伎など伝統芸能に携わる人の中には、相次ぐ舞台の休演でやむを得ずウーバーイーツでアルバイトしているという話まで耳にする。

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