生産量を増やして待ち期間は1年半に短縮
過去、最大4年半待ちとなった「クロワッサン餃子」(50個入り税込2650円)の「たれ屋」(香川県)は、幾度もの経営危機を乗り越えて全国からの注文が途絶えない人気店となった。
「2006年にアパートの1室で餃子の製造販売を開始しましたが、当時は生活するのも精いっぱい。2年後には貯金を食いつぶす寸前でした」(木内政信社長)
従業員の給料支払いにも窮する状況だったというが、全国放送のニュースで取り上げられたことをきっかけに業績はうなぎのぼりに。「放送後、3000件の注文が来て2か月待ちになりました。その後も注文が絶えず、待ち期間はどんどん長くなっていきました」と木内社長は振り返る。
だが、リピート購入を希望する客を特別扱いしなかったことで注文が激減し、月の半分は工場を閉める窮地に立たされることになる。皮肉なことに、注文の殺到が客離れを招いてしまったのだ。
「そこで“ご新規”と“リピーター”それぞれに枠を設けることにしたのですが、やはり生産能力には限界がある。お客様からは『(話題作りのため)わざと作る量をコントロールしているのではないか』と言われることもありました」(木内社長)
そうした逆境の中、木内社長は大きな賭けに出る。
「借金をして新たな工場を建て、1日5000個だった生産量を約3倍に引き上げたのです。正直なところ『また注文がぱったり途絶えるかもしれない』と思うと、新たな投資は怖かった。でも、かつて働いていた会社の社長に『必要とされているときに売らなければ意味がない』と諭され、決心がつきました」(木内社長)
品質を保つため、現在の生産量は1日1万2000個。待ち期間は1年半に落ち着いた。
「コロナ禍では受注が通常の4倍になる月もあります。ただ、(2011年の)3.11の震災後に1日の新規注文が1桁になったように、いつ注文が止まるかわからない。毎日ヒヤヒヤしながらやっています。私が餃子で苦労している姿を見ているからか、うちの家族は餃子を食べません(笑い)」(木内社長)
作り手にも、購入者にもさまざまな人生ドラマがある「長待ち取り寄せグルメ」。長い月日をかけて届いたら、予約・注文した「あの日」に思いを馳せながら賞味するのも一興だろう。