ワクチンや治療薬の開発、緊急医療体制の確立など、新型コロナウイルスへの対応について、日本は世界の中でも大きな遅れを取っているように見える。日本の役所は、なぜ緊急事態で後手後手になってしまうのか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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日本の新型コロナウイルスワクチン接種率は1.8%で相変わらず主要国最下位だ(4月末時点)。河野太郎規制改革担当相によると、約1億1000万人の接種対象者(16歳以上)全員分のワクチンを供給できるのは9月末だそうである。
一方で、東京都、大阪府、兵庫県、京都府に三度目の緊急事態宣言を発令しても感染拡大に歯止めはかからず、終息の見通しが全く立たない状況に陥っている。
そもそも日本は諸外国に比べると、ワクチン開発、治療薬開発、緊急医療体制の確立で決定的に遅れてしまった。たとえばワクチンは、すでにアメリカのファイザーやモデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、イギリスのアストラゼネカなどの製品が世界各国で承認・使用されているが、日本の製薬会社はまだ開発途上だ。
なぜ、日本勢は出遅れたのか? もともと日本の製薬会社は新薬を開発する力がさほど強くない上、新型コロナのワクチンは従来のワクチンと開発方法が異なるからだ。従来のワクチンの開発方法だと実用化までに2~3年かかるが、新型コロナではファイザーやモデルナがウイルスの遺伝情報を使う「m(メッセンジャー)RNA」という新しい手法によって半年ほどで実用化した。
しかし、日本の製薬会社は販売している薬の大半が輸入品かライセンス生産品なので、新薬開発の歴史や経験があまりなく、新しいことにトライする企業風土も乏しい。このため今回のような突発した感染症の場合、その分野の研究者が少なく、すぐに対応することができないのだ。これは治療薬の開発についても同様で、スイスのロシュの系列会社である中外製薬などが開発を進めているものの、欧米勢から大きく後れを取っている。
新型コロナ検査数も、海外より大幅に少ない。国際統計サイト「worldometer」のデータ(4月末時点)によると、日本の人口100万人あたりの検査数は9万2760人で世界146位である。
さらに、緊急医療体制もお粗末だ。欧米各国はICU(集中治療室)など感染症対応が可能な病床の20~80%を新型コロナ重症患者の治療に使用しているが、日本は5%程度にとどまっているとされる。そもそも日本の場合は、厚生労働省にも自治体にも病院に対して指示・命令する権限がなく、新型コロナ病床の確保なども、あくまで「お願いベース」だという。